法人カードを導入すると、立て替えと振込の手間が消えて経費精算はぐっと楽になります。ところが、そこで安心して「明細があるから領収書はいらない」と運用してしまうと、消費税の申告で困ることになります。
国税庁は、クレジットカード会社が発行する利用明細書について「一般的に、適格請求書には該当しません」とはっきり示しています。つまり、カードの明細だけを保存していても、消費税の仕入税額控除の要件を満たさない場合があるということです。
この記事では、法人カードを使った経費精算の社内ルールを、証憑の保存という観点から組み立てていきます。決算時の判断や仕訳そのものではなく、日々の運用でつまずかないための設計に絞ってまとめました。

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仕入税額控除には何が必要なのか
まず制度の骨格から確認します。
適格請求書等保存方式(インボイス制度)の基本
国税庁のタックスアンサーNo.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」(令和7年4月1日現在法令等)では、令和5年10月1日から複数税率に対応した消費税額の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が開始しており、この方式のもとでは「一定の事項が記載された帳簿及び『適格請求書(インボイス)』等の保存が仕入税額控除の要件となります」と説明されています。
適格請求書とは、売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類するものを指します。税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者でなければ交付できない書類です。
帳簿と請求書等の両方が必要
タックスアンサーNo.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」(令和7年4月1日現在法令等)では、課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには「その事実を記載し、区分経理に対応した帳簿および事実を証する請求書等の両方を保存する必要があります」とされています。
この請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書のほか、仕入明細書等やそれらの電磁的記録が含まれます。
カードの利用明細書は適格請求書に該当しない
ここが本記事の核心です。
国税庁が公表している「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問103では、クレジットカード会社から受領する利用明細書の保存で仕入税額控除ができるかという質問に対し、次のように答えられています。
「クレジットカード会社がそのカードの利用者に交付するクレジットカード利用明細書は、そのカード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が作成及び交付する書類ではなく、また、課税資産の譲渡等の内容や適用税率など、適格請求書の記載事項も満たしませんので、一般的に、適格請求書には該当しません。」(国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問103より引用)
理由は二つあります。ひとつは、明細書を作成しているのがカード会社であって、実際に商品やサービスを売った事業者ではないこと。もうひとつは、明細書に適用税率などの記載事項が備わっていないことです。
したがって、原則としては、店舗やサービス提供者から受け取った領収書やレシート(適格請求書または適格簡易請求書)を別途保存する必要があります。
カード払いのたびにレシートが増えていくので、受け取った時点で入れておく場所を決めておくと紛失が減ります。月別のポケットが付いたレシート収納ファイルは、締め日ごとの提出とも相性がよい道具です。

ただし、例外的な取扱いもある
すべての取引で証憑を集めなければならないわけではありません。国税庁は取引の実態を踏まえた特例を設けています。
帳簿のみの保存で認められる取引
タックスアンサーNo.6496では、請求書等の交付を受けることが困難と認められる取引について、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとされています。列挙されているもののうち、経費精算で登場しやすいのは次のようなものです。
| 取引 | 条件 |
|---|---|
| 公共交通機関による旅客の運送 | 3万円未満(適格請求書の交付義務が免除されるもの) |
| 入場券等が使用の際に回収される取引 | 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されているもの |
| 自動販売機・自動サービス機からの商品の購入等 | 3万円未満(適格請求書の交付義務が免除されるもの) |
| 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス | 郵便ポストに差し出されたものに限る |
| 従業員等に支給する出張旅費等 | 通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当 |
少額特例(一定規模以下の事業者向け)
同じくNo.6496では、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行った課税仕入れについて、その金額が税込1万円未満であるものは一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められると説明されています。
この少額特例は期限が定められている経過的な措置です。また、事業者の規模による要件もあります。自社が対象になるかどうかは、基準期間・特定期間の課税売上高を確認したうえで判断してください。判断に迷う場合は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
免税事業者からの仕入れに関する経過措置
タックスアンサーNo.6498では、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて、一定の要件を満たす場合には令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額として控除できる経過措置が設けられていると説明されています。
ただし、令和6年10月1日以降に開始する課税期間からは、一の免税事業者等から行うその経過措置の対象となる課税仕入れの税込金額の合計額が年または事業年度で10億円を超える場合、その超えた部分については経過措置の適用を受けられないとされています。
特例や経過措置は期間と要件が細かく、条文だけで全体像をつかむのは大変です。図解の多いインボイス制度の解説本を1冊用意しておくと、社内でルールを説明するときの下敷きにもなります。
高速道路のETC利用は特別な扱いがある
営業車を使う会社にとって身近なのが高速道路料金です。前述のQ&A問103では、ETCシステムを利用してETCクレジットカードで精算した場合について、原則として高速道路会社が運営するETC利用照会サービスから利用証明書をダウンロードして保存する必要があるとされています。
そのうえで、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情により全ての利用証明書の保存が困難なときは、個々の高速道路の利用に係る内容が判明するクレジットカード利用明細書と、利用した高速道路会社等ごとの任意の一取引に係る利用証明書を併せて保存することで仕入税額控除を行って差し支えないという取扱いが示されています。
ここでも「利用明細書だけで完結する」わけではなく、利用証明書との組み合わせが前提になっている点に注意してください。

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社内ルールに落とし込む
制度の話を踏まえて、実際の運用ルールを設計します。
ステップ1:カードで払える費目を決める
あらかじめ対象費目を列挙しておくと、判断のばらつきが減ります。交通費、宿泊費、備品購入、通信費、会議費など、自社で発生する費目を書き出しておきましょう。
ステップ2:証憑の提出を必須にする
カードで支払った場合でも、店舗から受け取ったレシートや領収書を提出させるルールにします。「カード払いだから証憑は不要」という認識が社内に広がると、後から回収するのは困難です。提出期限は、カードの締め日に合わせると管理しやすくなります。
ステップ3:登録番号の有無を確認する習慣をつける
適格請求書には登録番号が記載されます。国税庁の説明によれば、登録番号の構成は法人番号を有する課税事業者であれば「T+法人番号」、それ以外の課税事業者であれば「T+13桁の数字」となります。受け取った証憑に登録番号があるかどうかを、提出時にチェックする欄を作っておくと後の処理が楽になります。
ステップ4:電子データで受け取ったものの扱いを決める
ネット通販やクラウドサービスの利用では、証憑がPDFやWeb画面で提供されることが増えています。No.6496に記載のとおり、請求書等には電磁的記録も含まれます。どのフォルダに、どういうファイル名で保存するかを決めておきましょう。
ステップ5:保存期間を確認する
保存の期間についても制度上の定めがあります。タックスアンサーNo.6496では、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿・請求書等について、帳簿はその閉鎖の日、請求書等はその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することとされ、6年目と7年目についてはいずれか一方を保存すればよいと説明されています。
法人税の側では、タックスアンサーNo.5930「帳簿書類等の保存期間」(令和7年4月1日現在法令等)で、法人は帳簿を備え付けて取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないとされています。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度などは10年間です。
7年分の紙の証憑となると、置き場所も決めておく必要があります。事業年度ごとにファイルボックスへ分けて背に年度を書いておくと、あとから特定の年を探すときに迷いません。
よくある質問
Q1. クレジットカードの利用明細は領収書の代わりになりますか?
消費税の仕入税額控除という観点では、カード会社が発行する利用明細書は一般的に適格請求書に該当しないと国税庁が示しています。原則として、店舗等から受け取った適格請求書または適格簡易請求書を別途保存する必要があります。
Q2. 1万円未満なら証憑はいらないのですか?
基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者について、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間の税込1万円未満の課税仕入れは、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとされています。事業者の規模と期間の両方の要件を満たす必要があります。
Q3. 電車代やバス代の領収書がありません。
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送は、適格請求書の交付義務が免除される取引として、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引に挙げられています。
Q4. 従業員に支給する出張旅費はどう扱いますか?
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引としてタックスアンサーNo.6496に挙げられています。
Q5. ETCカードの利用分はどう保存すればよいですか?
原則としてETC利用照会サービスから利用証明書をダウンロードして保存します。利用が多頻度で全ての保存が困難な場合は、個々の利用内容が判明するクレジットカード利用明細書と、高速道路会社等ごとの任意の一取引に係る利用証明書を併せて保存する取扱いが示されています。
Q6. 証憑を紙で保管するか電子で保管するかは選べますか?
電磁的記録による提供を受けた適格請求書等については、仕入税額控除の適用を受けるために電子帳簿保存法に準じた方法で保存する必要があるとQ&Aに記載されています。具体的な保存方法は自社の状況によって異なりますので、税理士または所轄の税務署にご確認ください。

まとめ
法人カードは経費精算を効率化してくれますが、消費税の仕入税額控除という観点では、カードの利用明細書だけでは要件を満たさない場合があります。国税庁のQ&Aが示しているとおり、利用明細書は一般的に適格請求書に該当しません。
社内ルールの出発点は、「カードで払っても、店舗から受け取った証憑はそのつど提出する」という一点を全員に徹底することです。そのうえで、少額特例や帳簿のみで認められる取引といった例外を整理していくと、無理のない運用に落ち着きます。
制度の詳細は国税庁タックスアンサーNo.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」、保存要件は同No.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」で確認できます。Q&Aの全文は国税庁のインボイスQ&Aのページから入手できます。あわせてクレジットカードの利用明細はいつまで保管すべきかの記事もご覧ください。
※税務に関する記載は、国税庁タックスアンサーNo.6496・No.6498・No.5930(いずれも令和7年4月1日現在法令等)および「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問103に基づいています。実際の税務処理は個別の事情によって異なりますので、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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