個人事業主が経費をカードで払ったとき、多くの方がつまずくのが「いつ、どの勘定科目で記帳するのか」という点です。現金払いなら支払った日に処理すれば済みますが、カードは利用日と引き落とし日がずれるため、二段階の仕訳が必要になります。
さらに、事業用と私用が混ざるカードでは「事業主貸」「事業主借」という個人事業主特有の勘定科目が登場します。この二つを取り違えると、貸借対照表の元入金がずれて、青色申告特別控除の要件を満たす帳簿になりません。
この記事では、会計ソフトの操作手順ではなく、仕訳そのものの考え方を整理します。どのソフトを使っていても共通する土台の部分です。

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大前提:経費になるのは「債務が確定した年」
まず時期の話から始めます。ここがずれていると、どんなに勘定科目を丁寧に選んでも数字が合いません。
国税庁のタックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)では、必要経費となる金額は「その年において債務の確定した金額」であると説明されています。そのうえで「その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりませんし、逆に支払っていない場合でも、その年に債務が確定しているものはその年の必要経費になります」と明記されています。
「その年において債務が確定している」とは、次の三つの要件をすべて満たす場合をいうとされています。
- その年の12月31日までに債務が成立していること
- その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること
カードで買い物をした場合、この三要件は商品やサービスを受け取った時点で満たされるのが通常です。引き落とし日ではありません。だからこそ、利用日と引き落とし日で二段階の仕訳が必要になります。
利用日で記帳するには、利用日が分かるレシートや領収書を手元に残しておくことが前提になります。月ごとに分けて保管できる領収書ファイルを用意しておくと、記帳のときに探し回らずに済みます。
基本パターン1:事業用カードで経費を払う
いちばん基本の形です。事業専用のカードで消耗品を33,000円分購入したケースで見ていきます。
利用日の仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 33,000円 | 未払金 | 33,000円 |
費用が発生し、まだ支払っていない債務が生まれた状態です。借方33,000円、貸方33,000円で一致します。
引き落とし日の仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 33,000円 | 普通預金 | 33,000円 |
債務が消えて、預金が減ります。ここでも借方と貸方はそれぞれ33,000円で一致します。
貸方の「未払金」は、事業に関係のある取引で生じた、まだ支払っていない代金を表す勘定科目です。カード払いの経費は、この未払金を経由するのが基本形になります。
基本パターン2:私用カードで事業の経費を払う
事業用カードを作る前や、うっかり私用カードで払ってしまった場合です。書籍を3,300円分購入したとします。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 新聞図書費 | 3,300円 | 事業主借 | 3,300円 |
ここで使う「事業主借」は、事業主個人のお金で事業の支出をした場合に使う勘定科目です。事業から見れば、事業主からお金を借りたのと同じ状態になります。
この場合、私用カードの引き落とし日には事業の帳簿では何も起こりません。事業のお金が動いていないためです。仕訳は利用日の1本で完結します。
基本パターン3:事業用カードで私物を買う
逆のパターンです。事業用カードで22,000円の私物を購入したとします。
利用日の仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 22,000円 | 未払金 | 22,000円 |
「事業主貸」は、事業のお金を事業主個人のために使った場合の勘定科目です。事業から見れば、事業主にお金を貸したのと同じ状態です。経費ではないため、費用の勘定科目は使いません。
引き落とし日の仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 22,000円 | 普通預金 | 22,000円 |

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基本パターン4:事業と私用が混ざる支出を按分する
携帯電話料金や電気代のように、事業でも私用でも使うものは按分が必要です。
按分のルール
所得税法第45条第1項第1号では、家事上の経費およびこれに関連する経費で政令で定めるものは必要経費に算入しないとされています。その政令にあたる所得税法施行令第96条第1号では、家事上の経費に関連する経費のうち「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」は必要経費不算入の対象から除かれると定められています。
そして国税庁の所得税基本通達45-2では、この「主たる部分が業務の遂行上必要」であるかどうかを、支出する金額のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかで判定するとされています。ただし書きとして、必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えないとも記載されています。
按分の仕訳例
事業用カードで支払った携帯電話料金11,000円のうち、事業使用分を60%と判断した場合です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 通信費 | 6,600円 | 未払金 | 11,000円 |
| 事業主貸 | 4,400円 | ― | ― |
計算を確認します。11,000円×60%=6,600円が事業分、11,000円×40%=4,400円が私用分です。借方合計は6,600円+4,400円=11,000円となり、貸方の11,000円と一致します。
按分の計算や借方・貸方の突き合わせは、毎月くり返す作業です。手元に電卓が1台あると、ソフトに入力する前の検算がしやすくなります。
按分割合の60%という数字は、この記事で説明のために置いた例です。実際の割合は、使用時間や使用実態に基づいて自分で合理的に算定する必要があります。所得税基本通達45-1では、主たる部分の判定は業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定するとされています。実際の税務処理は個別の事情によって異なりますので、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
基本パターン5:年をまたぐカード利用
12月に利用して1月以降に引き落とされる分は、その年の必要経費になります。前述のとおり、必要経費は債務が確定した年で判断するためです。
12月分として計上した未払金は、貸借対照表の負債として12月31日時点に残ります。翌年の引き落とし時に、その未払金を消す仕訳を入れます。
年末に「未払金の残高」と「1月以降に引き落とされる予定額」が合っているかを確認すると、計上漏れを見つけやすくなります。

青色申告特別控除との関係
ここまでの仕訳を正しく積み上げることは、青色申告特別控除の要件とも直結しています。
国税庁のタックスアンサーNo.2072「青色申告特別控除」(令和7年4月1日現在法令等)では、55万円の控除を受けるための要件として、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること、これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること、その記帳に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書等を確定申告書に添付して確定申告期限(翌年3月15日)までに提出することが挙げられています。
65万円の控除は、55万円の要件に該当したうえで、仕訳帳および総勘定元帳について電子帳簿保存を行っていること、または確定申告書等の提出を確定申告書の提出期限までにe-Taxを使用して行うことのいずれかに該当する場合とされています。これらの要件に該当しない青色申告者は10万円の控除となります。
複式簿記による記帳が求められるということは、貸借対照表を作れる形で記帳する必要があるということです。未払金や事業主貸・事業主借を正しく使うのは、そのための土台になります。
複式簿記に慣れていない方は、個人事業主向けに書かれた会計の本を1冊手元に置いておくと、勘定科目で迷ったときに立ち返る場所ができます。
よくある質問
Q1. カード払いの経費はいつの日付で記帳しますか?
必要経費となる金額はその年において債務の確定した金額であるとタックスアンサーNo.2210に説明されています。商品やサービスの提供を受けた利用日を基準に考えるのが基本です。引き落とし日は未払金を消す仕訳の日付になります。
Q2. 未払金と未払費用はどう違いますか?
実務上は、単発の取引による未払いの代金には未払金、継続的な役務提供に対して発生した未払いの費用には未払費用を使う整理が一般的です。どちらの科目を用いるかは会計方針にかかわりますので、判断に迷う場合は税理士にご確認ください。
Q3. 事業主貸と事業主借を間違えたらどうなりますか?
貸借対照表の元入金の計算に影響します。どちらも損益計算書の利益には直接影響しませんが、貸借対照表が正しく作れなくなるため、青色申告特別控除の要件を満たす帳簿という観点では問題になります。
Q4. 私用カードで払った経費でも必要経費にできますか?
事業に関連する支出であれば、支払い手段が私用カードであっても必要経費の対象になり得ます。その場合は貸方を事業主借として処理します。ただし、事業に関連する部分であることを説明できる記録が必要です。
Q5. 按分割合は毎月変えてもよいのですか?
合理的な根拠があれば実態に合わせるのが本来の姿ですが、根拠を都度残す負担が発生します。年間を通じた使用実態に基づいて一定の割合を用いる方法をとる場合も含め、採用した根拠を記録として残しておいてください。具体的な判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
Q6. カードの年会費はどの勘定科目を使いますか?
事業用カードの年会費は、支払手数料や諸会費などの勘定科目で処理されることが一般的です。勘定科目の選択は継続して同じものを使うことが大切です。迷う場合は顧問税理士に確認してください。

まとめ
個人事業主のカード経費の仕訳は、次の三つを押さえれば大部分に対応できます。
- 計上時期は債務が確定した日。利用日で費用を認識し、引き落とし日に未払金を消す
- 事業用カードで私物を買ったら事業主貸、私用カードで事業の支出をしたら事業主借
- 混在する支出は按分し、その根拠を記録として残す
仕訳を書いたら、借方合計と貸方合計が一致しているかを毎回確認する習慣をつけてください。これだけで多くのミスを防げます。
制度の詳細は国税庁タックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」と同No.2072「青色申告特別控除」で確認できます。家事関連費の通達は国税庁の所得税基本通達(法第45条関係)に掲載されています。事業用カードの選び方は個人事業主におすすめのビジネスカードの記事もご覧ください。
※税務に関する記載は、国税庁タックスアンサーNo.2210・No.2072(いずれも令和7年4月1日現在法令等)、所得税法第45条、所得税法施行令第96条、所得税基本通達45-1・45-2に基づいています。記載の仕訳例は説明のためのものです。実際の税務処理は個別の事情によって異なりますので、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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